青と残像
 
すべてが無意味だと悟った五月の風は
水面に舞い落ちた花びらを撫でてゆく
 
錆びた糸にふれた指が あなたを想い出すとき
霞んだ記憶が そっと色づく
 
煙る雲間をこぼれた微かな雨音
頬をくすぐる夜の匂い
静まりかえる抜け道 誰もいない街
あなたに逢う日は いつも 青い景色が滲んでいた
 
「奇麗事ばかり」とあなたが嘲笑うとしても
この胸に残った傷痕は嘘じゃない
くちびるが紡いでゆく 乾涸びきったレトリックは
それでも なぜかまだ 微熱を纏うよ
 
重なる溜め息 くちびる やわらかな温度
意味がないことくらい わかっていた
だけど 些細でちっぽけなその一瞬に 私は縁取られている
…動けるはずなんて ない
 
傷だらけの手で抱きしめあったぬくもりは
深く深く刻まれていく
吹き抜ける風が明日へ背中を押しても
うつろう季節に呼ばれても
鮮やかな声を 寂しく微笑む瞳を
忘れることなど出来ないから
どこにも繋がれることのない、空を切る指は
今もあの時のままで
あなたを捜して さまよう
 
その手を離して
 
written in 2010〜2011